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Steemの長所と懸念を考察する

Steemシリーズはおそらくしばらくの間はこれが最後になります。Steemの長所と懸念について忘れないうちにまとめておきたいと思います。

長所

報酬を支払う主体がいない

コンテンツを投稿することにより報酬がもらえる、というようなSNSはこれまでにもいくつかありましたが、Steemのような分散型で誰も支払者がいないのに報酬がもらえるプラットフォームは初めてです。

今まで失敗したSNSはどうしても報酬コストがかかりすぎるため、ユーザーに報酬を支払い切れず企業として運営が成り立たないという側面がありました。Steemの場合は自動的に報酬を発行しており、根幹のシステムの部分はP2P型で一中央集権的企業ではなく各ユーザーが運営していることになるので、運用コストも少なく従来のものと比べると運営会社の倒産リスクなどが非常に小さいと思われます。そのため、一概に詐欺でどうせ失敗すると一言で終えられないプロジェクトであると思っています。

また、ほとんどのウェブ系事業の収益は広告収入がほとんどを占めますが、Steemでは広告による収入が必要なくユーザーの利便性も高いといえます。

オープンソースなブロックチェーンによる長所

Steemはブロックチェーンがベースとなっており、それによる恩恵がいくつかあります。

まずは、サーバーダウンのリスクが小さいことです。現在まともに稼働しているSteemの内容を閲覧できるサイトはSteemit.comのみですが、ブロックチェーン内にコンテンツが保存されているので、Steemit.comが落ちて見れなくなっても他のサイトを通じて見ることが可能です。このサイトは開発チームだけではなく誰にでも立ち上げることができ、実際に最近では開発段階ではあるもののローカルPC上でSteemを閲覧できるオープンソースのサービスも登場しています。最初に紹介した記事に書いたようにSteemit.comのようなサイトはSteemのブロックエクスプローラーにあたるため、ユーザーが誰にでも作ることができるのです。

また、検閲に耐性があるというのもメリットです。過去のデータを改ざんすることが非常に難しく、全投稿履歴・編集履歴が半永久的に残り続けることになります。サイト上で表示を制限することは可能ですが、ブロックチェーンの情報を直接見れば隠すことはできません。

ある程度の規模まで成長すれば、今の開発チームが解散しても有志によりSteemは続いていくことが考えられます。

懸念

先行者・大口保有者に有利すぎる?

Steemでは、SPに非常に高い利子がつくためどうしても大口保有者に有利になりがちです。利子の比率は一定ですが、1億円が2億円になるのと1000円が2000円になるのとでは大きな違いがあり、資産の格差が埋まりにくい構図になっていると思われます。

また、90%が利子分で残りの10%が報酬となるのですが、報酬の各獲得方法についても大口保有者が有利になる傾向があります。報酬を得るには①コンテンツ投稿②コンテンツへ投票③マイニング④分散型取引所への注文によるボーナスの4つがありますが、うち②と④については、かなり大量のSTEEM(SP)を保有していなければ実質的に報酬を得ることが難しく、大口保有者が有利となる要素でもあります。特に②の投票については、ライトユーザーの投票のモチベーション低下にもつながりかねません。ライトユーザーの投票が減り全体の投票数が減ると、無視されていると感じる投稿者が増えすぐに辞めてしまうユーザーも多くなってしまう可能性があります。とはいえ、誰でも簡単に投票により報酬が貰えるようになってしまっては、スパムが増える可能性も高く、良質なコンテンツを維持するためには、大口保有者を有利にすることは必要不可欠とも考えられます。

先行者利益が大きいというのも特徴です。90%/100%のインフレ率という言葉を繰り返し使っていますが、初年度の現在はさらに大きい数百%以上のインフレ率です。具体的なインフレ率の推移は面倒臭いので計算していませんが、4月から登録していた私のSP量は利子分だけで3ヶ月も経たないうちに既に3倍以上になっており、初期の初期から登録していた人などは1年で10倍近く、あるいはそれ以上になるのではないかと思います。

先行者・大口保有者に有利になりすぎると新規ユーザー獲得のマイナス要因になり得ます。

十分な報酬額を維持できるのか

1週間に1/104しか引き出せないことを勘案しても、少なくとも現在は、コンテンツの投稿をして大口保有者から投票されれば、かなり多額の報酬がもらえる状況です。しかし、報酬の全体のパイの大きさは決まっているので参加ユーザーが増えれば増えるほど一ユーザーあたりの報酬額が減ってしまいます。十分な報酬額と参加ユーザー数のバランスがとれるところが未知数であり、果たしてSteemが目標としている?Redditのレベルまで成長を続けられるかはなんともいえないところがあります。

逆にビットコインのマイニングと同じように、参加ユーザー数が減れば報酬額が増えるような構造になっているので、伸び悩んだ時にユーザー数を維持できるのかどうかも興味深いところであります。

誰もWitnessに興味がない

取引の承認を行っているwitnessもSP保有者による投票で選出されます。しかし、一般ユーザーは全く気にしていませんし、witnessについて書かれたガイドや各witnessの紹介ページのようなものを見つけるのも非常に難しいです。witnessはマイナーにあたるので、いちいち一般ユーザーが気にする必要があっては逆に不便ですが、DPOSはセキュリティシステムの根幹にあたるので、witnessへの投票率が下がることにより何らかの問題が起きないか不安ではあります。

今の大口保有者はBitSharesコミュニティからの出身者が大半なので、彼らはwitnessについて理解して投票もしていると思われ大きな問題はないでしょうが、Steemが大きく成長して全体の投票率が下がっていったときに何らかの問題が発生する懸念があります。もっともこれはBitSharesにも共通するまだまだ実験段階のDPOS自体の懸念でもあります。

ノード/マイナーの負担

Steemはその特性上ブロックチェーンの容量・成長速度が非常に大きく、ノードを立ち上げるPCに負担がかかりがちです。スタートから数か月程度の現在では問題ではありませんが、数年経って今後さらに成長した場合、一般ユーザーのPCでは容量が大きすぎてブロックチェーンをダウンロードすることさえできないのではないか、という不安があります。

SMDの意味はどれだけあるのか?

Steemには分散型の米ドル連動型通貨SMDがあります。SMDはBitSharesのSmartcoinsとは仕組みが違って緩いペグであるため、1USD=1SMDとうたってはいるものの大きな価格変動があると1USD=1.6SMDなどになることがよくあります。

SMDを使ったマーケットプレイスなども実装する予定らしいですが、STEEM(SP)と比べれば価格はかなり安定しているものの、この緩さでどれだけSMDを導入する効果があるのか疑問です。

仕組みが複雑すぎる

Steemはとにかく仕組みが複雑です。DPOSとか一般ユーザーが知る必要のない根幹部分はある面複雑でもなんでも許せますが、一般ユーザーの報酬の獲得スキームにいたるまでとにかく複雑です。ブログを書いている身としては、報酬配布の仕組みは公開当初から改良されており今後も改良される可能性があるため、記事にしたくてもしづらい面もあります。

この複雑さは新規ユーザーを獲得する上でマイナス要因と言えるでしょう。

ハイパーインフレ

Steemを調べてまず最初にヤバいと思うのが超高インフレ率です。個人的には正直なところハイパーインフレは大して問題じゃないだろうという気になってきていますが、週に1/104しか引き出せないというSPのシステムと合わさって初見の人からするといかにも詐欺的な雰囲気を漂わせる要因になっており、一部ユーザーから敬遠される可能性があります。

ここらへんの仕組みも非常に複雑であるので個人的にはまだ白とも黒とも判断できていません。

システム的に多言語対応に向いていない

日本人として最初に思う疑問は日本語対応しているかどうかです。一応、日本語でもアラビア語でも投稿はできます。今はサイトは英語表示に最適化されていますが、今後は言語フィルターが実装されたり、Steemit.com以外に他言語用のサイトを立ち上げる人がでてくるかもしれません。

しかし、フロントエンドでの多言語向けの最適化は今後徐々に行われる可能性があるものの、Steemというのはそもそも根本的に英語(一つの言語)に最適化されたプラットフォームです。それは、コンテンツの投稿による報酬が、STEEMの大口保有者による投票を受けて初めて貰えるためです。1000円とか10000円程度持っている人からいくら投票されても雀の涙程度の価値にしかなりません。その言語を使える人の中に大口保有者がいなければ原理的にほとんど報酬が貰えないのです。実際にSteemの日本人の大口ホルダーは今のところは見たことがないので、たぶん日本語で投稿してもどんなに多くの日本人から投票を受けたところで現在はほとんど金にならないと思います。

このような構図があるため、FacebookやTwitterのような世界規模のSNSに成長できるかと聞かれればかなりの疑問が残ります。