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Ardorとその子チェーンIgnisとICOについて

何回か書いているNxt,Ardor関連記事。7月の終わりにArdorとその子チェーンIgnis(FNXから改名)についてのホワイトペーパーが公開され、つい数日前にIgnisのICOが始まりました。このブログで何回か取り上げてきたこともあり、改めて記事を書いておきます。

ホワイトペーパーは英語しかありませんが、あまり細かい技術的な内容には触れず難しい数式もなくかなりわかりやすいようにまとまっているので、できればそちらを参照することをおすすめします。

Ardorの概要

大まかな内容は以前の関連記事を見てください。Ardorトークンの配布は終わっており、現在はNxt内の分散型取引所または普通の外部取引所から入手することができます。

Ardorの子チェーンは企業などが自由に立ち上げることができ、セキュリティを親チェーンのArdorに任せながらも自由に安全に各企業のブロックチェーンを運用できるということを売りにしています。その最初の一つの子チェーンとしてArdorの開発チームによって立ち上げられICOが始まっているのが、Ignisです。

以前の記事の中ではArdorの最大のコンセプトは「サイドチェーン」です、と書いており、Nxt(Ardor)の開発チームもサイドチェーンという言葉を使っていたのですが、実際はサイドチェーンとは違うことが明らかになりました。

サイドチェーンについて

開発チームもホワイトペーパーの中で、サイドチェーンとは区別・比較しており、Side Chainsに対して「(Ardor) Child Chains」という言葉を使っています。

特に、この手の新しい言葉の意味は明確な定義が決まっているわけではなく、流動的ではありますが、ホワイトペーパーのなかでは、サイドチェーンという言葉を「それぞれが独立したブロックチェーンでお互いのチェーンが何らかのペグで結びつけられているもの」、というような意味で使っています。

Ardorのホワイトペーパー以外の場所でもこの説明は一般的であると思われます。サイドチェーンというとLiskとか、あるいはRootstockとかLiquidのような新規ブロックチェーンがよく話題にあがります。しかしそれ以外にも、例えばビットコインとイーサリアムのチェーンをペグしてBTCとETHを相互交換できるようにしよう、みたいな話もあって、もしそれが実現されれば、ビットコインがイーサリアムのサイドチェーンになったとかイーサリアムがビットコインのサイドチェーンになったみたいな言い方もできるわけです。

つまり、Rootstockとビットコインの間の関係のように親子関係のようになっている場合もありますが、そうではない場合もあり基本的にはそれぞれが「独立したブロックチェーン」でさえあれば、サイドチェーンになりうるわけです。逆に言うと、サイドチェーンはそれ自体は独立したブロックチェーンであり、どうしてもブロック生成のためのコンセンサスアルゴリズムが必要となり、特に新しくブロックチェーンを立ち上げる場合はそれをPoWにしてビットコインとのMerged Mining(同時採掘)であったり、プライベート(コンソーシアム)チェーン的にして特定の企業間のノードによる承認でブロックを生成したりする必要があるわけです。

子チェーンから親チェーンArdorへのbundleによる複数「チェーン」方式

そのようなサイドチェーンの一般的な定義に照らし合わせると、親チェーンArdorと子チェーンは全くサイドチェーンではありません。そもそも子チェーンは「ブロックチェーン」ではありません。

ブロックチェーン構造としてはArdorチェーンの一本のみです。ArdorのチェーンはNxtやWavesと同様にPoSをコンセンサスアルゴリズムとする普通のブロックチェーンで、PoSによりブロックが生成されトランザクションが確認されていきます。

子チェーンにはブロックという概念がなくブロック生成者、いわゆるマイナー的な役割を果たす人のことを「bundler」と呼んでいます。bundlerの役割は子チェーンのネットワーク内の複数のトランザクションを集めて、Ardorチェーンの一つのトランザクションにまとめてArdorネットワークに送信、Ardorのブロックによりトランザクションを承認させることです。この一連の作業が「bundle」と呼ばれています。そのため、子チェーンの実態はブロックの連なりではなく、単なるトランザクションの連なりであり、それぞれのトランザクションが一本のArdorチェーンのブロックに取り込まれているだけといえます。

つまり子チェーンのbundlerは通常のブロック生成を行うマイナーとは違い、取引手数料としてARDRを支払う必要があります。代わりに子チェーン内の基軸トークンを集めるため、そのトークンの価値が取引手数料ARDRの価値を上回れば、bundlerには報酬が発生することになりますが、そうでない場合は、bundlerをやっても損をするだけということになります。

これではbundlerになるインセンティブが低すぎて、子チェーンのトランザクションが全く承認されなくなってしまうようにも一見思われますが、Ardorとしてはビジネスとして企業が子チェーンを立ち上げることを主眼に置いており、bundlerというのは一種のシステム運用コストであるとも説明されています。

実際に複数の独立したブロックチェーンを立ち上げることになるサイドチェーンとは違い、一本のブロックチェーンなので、一般的に考えればサイドチェーンよりスケーリング能力は低いと考えられます。しかし、親チェーンArdorのブロックの子チェーンのトランザクションデータには細かい情報(例えばIgnis内でAからBへ2IGNIS送金)は保存されず、子チェーンの運用ノードのみによってその情報が保存されるので、一からブロックチェーンをダウンロードするとき、全チェーンの全トランザクションをダウンロードする必要がなく普通のブロックチェーンよりもスケーリングに優れているとされています(承認時にはArdorのPoSマイナーによって全チェーンの全トランザクションが検証されますが、1440ブロック以前の子チェーンのトランザクション情報は破棄されるようです。)。

また、サイドチェーンとは違い子チェーンの取引承認はすべてメインのArdorチェーンによってなされるので、どのように子チェーンのブロックを生成するかなどを考える必要がなく、全ての子チェーンがArdorに依存でき一定のセキュリティが保障されるともしています。その他として、子チェーンのトランザクションにはその子チェーンの基軸トークンのみを手数料として支払う(→bundlerへ)必要があり、エンドユーザーは子チェーンの基軸トークン以外のトークンを買って手数料として支払う必要がないので、子チェーンを立ち上げるビジネスとしてはより自由な運用が行いやすいということもメリットとしてあげられています。また、実態としては一本のブロックチェーンなので、ブロックチェーン上のトークンの自由な交換が行いやすく、Nxtでは出来なかったトークン間の分散型取引もできるようになるようです。

ICOの混乱

ということで現在はArdorの最初の子チェーンIgnisのICOが行われています。日本語ページもあるので詳細はICOページを参考にしてください(最新情報が更新される英語ページも要参照)。

大ざっぱに説明すると、ICOは5期間に分かれ10月14日まで開催されます。Ardorの立ち上げはICO終了後二週間はされないことになっているので、早くてもスタートは11月ということになり計画の発表当初の予定より遅れることとなりました。

IGNISトークンは、ICOの参加者の他にもNxtの保有者にも配布されます。レートはICOより低いですが、NxtとIGNISの両方を持つことができるので、もしArdorスタート後にNxtが一定の価格を保てばICOよりも有利ということにもなり得ます。ただし、Nxtのブロックチェーンは一年間しか開発チームによりサポートされないことが発表されていますし、スタート後Ardorに致命的な問題でも起きない限りNxtが長く生き残る可能性は低いのではないかと思われます。

改めてICOの話に戻ると、現在は8/5から8/10の最初の期間でさらにその最初の6日間を12回の期間に分けてICOを行っています。日本時間で毎日15:45~16:15、3:45~4:15の期間のいつかの時点から各ラウンドをスタートということになっています。

しかし、IgnisのICOでは各段階でトークンの販売上限があり、最初と2回目の期間のICOで同じ一つのアカウントにすべてのIGNIS(各ラウンドで500万JELDA=500万IGNIS=200万NXT=約3000万円)を購入されてしまうという事件が起きました。この事態に多くのNxtコミュニティの人が不公平だとNxtのredditや公式フォーラムがかなり荒れている状態です。IgnisのICOは基本的にNxtウォレットから参加するもので、自分でツールでも開発しない限り開催直後にしかトランザクションが送信できないようになっているのですが、これを受けてNxtのクライアントの新バージョンがリリースされ自分がフルノードであれば開催前からでもトランザクションを予約しておいて送信できる機能が追加されました。

開発チームの迅速な対応にコミュニティは好印象ではあるものの、つい先ほど行われたラウンドも1アカウントが486万IGNISを買い占め計5アカウントしか買えなかった状況になっており、また不満が出てきてもおかしくはありません。

ということで、最初のNXT配布が不公平だと常に批判を受けてきたNxtですが、Ignisでも同様に批判されてしまう可能性が出てきています。IGNISトークン自体はPoSのセキュリティとは無関係なのでトークン買い占めで51%攻撃が・・・みたいなリスクまではありませんが、ICO期間全体から見ればまだまだ最初の期間でなんともいえないものの、スムーズに不満無くスタートできるかは不透明な状況になっています。

もしArdorに期待していてIgnisのICOに参加したいという人がいれば、単純にIgnisのICOに参加するのではなく、Ignisは諦めて親チェーンのARDRを買うとか、今のうちにNxtを売っておいてNxt保有者へのIgnis配布を狙って一番安い時期に買い戻すことを目指すとかいろいろ選択肢を検討してもいいかもしれません。