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BitShares創設者が開発したブロックチェーンベースのソーシャルメディアSteemとは?

クラウドセールブームが続く中、今月の3日にSteemという新プロジェクトがベータ版としてひっそりとスタートしました。仕組みについて完全には理解できていないところもまだありますが、マイニングを試してみたりアルファ版のころから登録していたので概要を書いてみたいと思います。

Steemの概要

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Steemは、BitSharesの創設者でありリード開発者のbytemasterことDaniel Larimerにより開発されました。BitSharesのベースとなっているGrapheneというエンジンを基にはしていますが、基本的には一からコードが書かれ、独立したブロックチェーンとなっています。

参加者が報酬をもらえるRedditというコンセプトを標ぼうしており、実際のイメージもRedditと同じようなソーシャルメディアと考えて良いと思います。ブロックチェーン上にコンテンツ内容が書き込まれているため、言わばブロックエクスプローラーがソーシャルメディアサイトになります。公式のサイトはsteemit.comですが、ブロックエクスプローラーと同様に誰でもsteemit.comのようなサイトを立ち上げることが可能です。

Steemネットワーク内の3つの仮想通貨

Steemはブロックチェーンであり、3つの仮想通貨が存在しています。

STEEM

Steemネットワーク内の最も基本的な仮想通貨がSTEEMと呼ばれるものです。他の2つの仮想通貨の価値はこのSTEEMによって支えられています。

STEEMは他の従来のよくある仮想通貨と同様、取引所で取引されます。現在は、Bittrex及びOpenLedgerで取引されています。

SP(Steem Power)

実際のSteemの利用に必要とされるのがSPと呼ばれるものです。STEEMからSPへの変換は即時可能ですが、SPからSTEEMの変換はすぐには行えず、2年間かけて1/104ずつ(毎週1回、合計104週)STEEMに変換することしかできません。また、SPは他人に送信することが一切できません。

このSPは、仮想通貨業界で良くある投機的な取引(短期的売買)を抑制するために主に導入されているようです。実は、Steemというのはかなりのインフレ型通貨であり、年に約100%供給量が増加する設定になっています。この新規発行のうちの大半はSPの保有者にそのまま還元され、SPを持っているだけで銀行の利子のようなかたちで新規発行のSPを受け取れるようになっています。

つまり、すぐに売買できるSTEEMというかたちで資産をもっていると利子を受け取れず、同じ量をSPとして保有している場合に比べて資産価値が段々と目減りしてしまい、他の仮想通貨と比べてSTEEMへの投機リスクが高いのです。またSteemの利用による報酬の半分はSPであるため、売り圧力がほかの仮想通貨と比べて弱くなります。

SMD(Steem Dollars)

3つ目の仮想通貨がSMDと呼ばれるものです。SMDは常に1SMD=1アメリカドルとなるような価格連動・固定型の通貨です。Steemを利用することでもらえる報酬の半分はSP、もう半分はSMDというかたちで支払われます。SPはすぐにはSTEEMに変換できず送信も禁止されているので、報酬を法定通貨に変えたい場合にはこのSMDを変換することになります。

Steem内にはSTEEM/SMDの分散型取引所が実装されているので、1SMDを受け取った場合には1ドル分のSTEEMに変換することができます。SPとは違いSMDは自由に送信することができるので、もしSTEEMだけではなくSMDを外部の取引所が扱うようになれば、外部の取引所で交換できるようになるかもしれません。

ちなみにこのSMDは、SPと同様に保有しているだけでSMDとして利子が貰えるので、貯蓄用の通貨としても優れているとされています。

報酬を得るための主な方法

報酬は原則としてSTEEMではなくSP及びSMDとして支払われます。では、実際にSteemをどのように利用すれば報酬が得られるのでしょうか。細かい仕組みはかなり複雑であるため、おおざっぱな概要だけ書きたいと思います。最初の報酬の支払日である7月4日以降は1日1回支払われることになっています。

以下で書くもの以外にも、SPやSMDを保有していることによる利子や、STEEM/SMDの分散型取引所で注文を出す(流動性を確保する)ことによるボーナス報酬などもあります。

コンテンツ・コメントの投稿

Steemにコンテンツを投稿したり、コメントを投稿したりすると報酬がもらえます。しかし、もちろんスパム的なコンテンツは評価されず、他者から良いコンテンツと投票されたコンテンツのみについて、投票量に応じて報酬を受け取ることができます。

コンテンツ・コメントへの投票

投稿されたコンテンツやコメントに投票することで報酬がもらえます。この投票は各自が保有しているSP量に応じて「重み」がつけられます。複数のコンテンツに投票した場合、投票は分割され一つ一つの投票の「重み」は小さくなってしまいます。この仕組みは、あらゆるコンテンツに投票し報酬を得ようとする投票スパムを防止するために導入されています。

投票による報酬は、投票者が多いコンテンツほど多くの報酬をもらえるようになっており、また、より早く投票を行った人が多くの報酬をもらえるようになっています。

SPの保有量に応じて投票量を割り当てることで、大量のSP保有者が価値のないコンテンツに投票するインセンティブを削ぐ効果を狙っています。Proof of Stakeのセキュリティ保護の根拠とも似ていますが、Steem自体が価値のないものになれば一番被害を受けるのはSPの保有者なので、SPの大量保有者はSteemを育てるために自然と良いコンテンツに投票するだろう、というわけです。

マイニングで稼ぐ

Steemはブロックチェーンなのでコンセンサスアルゴリズムがあります。このコンセンサスアルゴリズムは、DPOS/PoWのハイブリッドと言えるものです。DPOS(Delegated Proof of Stake)についてはサイトのBitSharesのページを参照してください。(Steemにあるのはwitnessのみでcommitteeやworkerは存在しません。)

BitShares / ビットシェアズ - ビットコイン2.0 | Bitcoin日本語情報サイト

Steemでは、ビットコインのマイナー(採掘者)にあたる取引の承認者のことをwitnessと呼び、witnessには21人が選ばれます。witnessのうち20人はBitSharesと同様に、SPの保有者による投票で選ばれます。しかし、最後の一人はビットコインと同じくProof of Workの計算によって選ばれたマイナーとなります。

このマイニングにより誰でも報酬をもらうことができます。(もちろんSP保有者の投票によりwitnessとして選出されて報酬をもらうこともできます。)

SteemのProof of Workでは、マイニングに秘密鍵が必要とされるようになっており、マイニングプールの結成やbotnet(他人のコンピューターに採掘ウイルスを感染させ採掘させる手法)を防ぐとしています。共同で採掘を行うには秘密鍵が必要となるので、マイニングプールの管理者の秘密鍵をプールの参加者に配布しなければならなかったり、botnetの開発者はウイルスに自らの秘密鍵を忍ばせなければならなかったりするため、それらの対策になるというわけです。

報酬はどこからくるのか?

ではこれらの報酬は誰が支払うのでしょうか?実は誰も支払いません。つまり、報酬を支払うたびに新規発行するのです。そして、これがSteemが年約100%増加という一見ハイパーインフレ通貨である理由の一つでもあります。

当然インフレ通貨ということは価格の下落が懸念されます。Steemでの通貨発行の仕組みは複雑ではっきりと判断できるほどまだ理解できていませんが、正直軽くホワイトペーパーを読んだ限りではこの懸念は解消されませんでした。価格下落要因を上回るスピードで新規ユーザーを獲得できれば問題はないでしょうが、果たしてこの成長を継続できるのかという点についてはかなり疑問が残り、詐欺的スキームになっているのでは?という懸念もあります。

まとめ

Steemは仕組み的にいろいろと面白いですし、チップのように誰か支払う主体がいるのではなく、ブロックチェーンのおかげで「誰も支払う人がいないのに報酬がもらえる」というのも面白いコンセプトです。

最近はクラウドセールラッシュが続き、過去には金だけ集めておいてその後何をしているのかよくわからないというプロジェクトも非常に多かったので、ICOを行うことなく実際に稼働を始めたSteemはそれだけで素晴らしいとも思えます。Steemの具体的な構想は今年に入ってからで実質3~4ヶ月ぐらいで開発を完了したようです。

分散型SNSとしては過去にクラウドセールを行ったSynereoが有名ですが、実際にスタートした分散型SNS系プロジェクトとしてはSteemが第1号となりました。しかし、第1号が必ず成功するとは限らず、Steemには本記事で書いたような価格下落の懸念やその他書きませんでしたが問題点や懸念はいくつかあります。

今後はSteemに関するさらなる詳細・考察や、微妙に中身は違いますが競合となる可能性もあるSynereoや今月に入って発表されたEthereumベースのAkashaなどのSNS系プロジェクトとの比較も書いてみたいです。

参考リンク

Steem

https://steem.io/SteemWhitePaper.pdf

Steemit

Steem Explorer