最も人気の高いビットコインのAndroid用ウォレットの一つであるMyceliumのトークンのクラウドセール(資金調達)が5月2日からはじまる予定です。昨日4月30日には、Slock.it(The DAO)のクラウドセールも始まったようで、そちらの記事のほうが需要があって短期的な投資としての旨みもある気がしますが、個人的には参加しない予定なのでMyceliumのほうを書きたいと思います。
Myceliumのクラウドセールについては、投資というよりは、普段お世話になっているウォレットへの寄付感覚で少額参加予定です。
ウォレットの大型アップデート計画
既に十分に稼働しているプロジェクトのクラウドセールというのは、恐らく初めてのことです。そもそも、Myceliumがクラウドセールをはじめる背景には、同時に発表されたウォレットの大型アップデートのための資金調達をしたいというものがあるようです。
大型アップデートの概要は以下の通りです。
1.誰でもMyceliumを利用できるAPIの実装
現在、Myceliumには、通常のウォレット機能以外にもハードウェアウォレットと連携していたり、ウェブウォレットのCoinapultの価格ロック(100ドル分など常に一定の法定通貨分のビットコインを保管できる)サービスと連携していたりします。
これらの他社サービスとの連携は、現在はMyceliumの開発チームがウォレットにコードを実装してひとつひとつ行っていますが、新ウォレットではプラグインというかたちで誰でもMyceliumのウォレットを利用したサービスを開発できるようです。取引所がMyceliumのAPIを利用することで、わざわざ取引所独自のウォレットを開発しなくても取引所アプリを楽に開発できる、ということなどが使用例として挙げられています。
Myceliumは仮想通貨業界のAppStore(iOS)またはGoogle Playストア(Android)になることを目指しており、開発者が自由にMyceliumへのプラグインを販売できユーザーが機能を追加できるシステムと説明されています。
企業から連携機能をMycelium内に実装して欲しいという問い合わせが多くあるものの、開発リソース不足などが原因で基本的に断っている状況がこのプラグインシステム導入の背景にあるようです。
2.複数コインのサポート
現在、ビットコインウォレットのほとんど全てがビットコインのみをサポートしており、他のアルトコイン等仮想通貨はサポートされていません。複数の仮想通貨をサポートしているウォレットはCoinomiのみと言っていいでしょう。新バージョンのMyceliumでは、他の仮想通貨のサポートも先のプラグインシステムを利用して行われるようです。例としてはLitecoin、Dogecoin、 ColoredCoin、Ether、Factom、その他公式サイト上ではWAVESなども挙げられています。
これらの他の仮想通貨の追加をどこまでMycelium開発チーム自身が行うのかは不明ですが、APIを利用したプラグインというかたちになるため、誰でも追加ができるとのことです。Etherについてはたぶんやらないということを言っているので、例として挙げられているからと言って必ず開発チーム自身が実装するわけではなさそうです。
3.複数プラットフォームでのサポート
現在のMyceliumはAndroid専用モバイルウォレットです。(一応、iOS版もリリースされていますが、いろいろとお粗末な内容のウォレットとなってしまっています。)
新バージョンのウォレットは一からコードが書かれ、AndroidもiOSも同じインターフェイスで同じ機能をサポートするものになるようです。将来のWindows Phone用ウォレットやPC用ウォレットの開発についても言及しています。
現在、複数プラットフォームとしてメジャーなウォレットはCopayぐらいしかありません。
リリース時期など
新バージョンのウォレットのリリース時期は今年末あたりを目標としているようです。しかし、はっきりと時期が約束されているわけではなく、できたらいいぐらいの雰囲気なので、実際のリリース時期は来年あたりと考えておいたほうがいいと思います。
クラウドセールについて
Myceliumのクラウドセールは今までの他のクラウドセールと比べてかなり特殊なものになっています。正直公式サイトを見ただけではよくわからないことが多く、redditにかかれている質問へのMyceliumのプロダクトマネージャーの回答などを参照して大体理解ができました。個人的な備忘録も兼ねて、その内容についてまとめてみたいと思います。
クラウドセールの開催期間
日本時間の5/2 15:59~5/19:15:59まで
Myceliumのトークンってそもそも何?
Myceliumはあくまでもウォレットなので、最近クラウドセールが行われたLiskやWAVESのように、販売したトークンが実際の利用に必要となるわけではありません。Myceliumは変わらず無料で使い続けられるので、今回クラウドセールを行うトークンはMycelium社の「株的なもの」と言えるでしょう。
トークンの作成プラットフォームは?
クラウドセールにはCounterpartyやOmni(旧Mastercoin)を使って作成されたトークンを販売するケースが多くありますが、今回MyceliumではビットコインのColored Coinsプロトコルを利用するようです。これも私が知る限り恐らく初めてのことです。
カラードコインについては、当サイトで解説していますので参考までにリンクを貼っておきます。
Colored Coins / カラードコイン - ビットコイン2.0 | Bitcoin日本語情報サイト
カラードコインのプロトコルにはOpen Assets Protocolをはじめとしていくつかありますが、MyceliumはColuのColored Coinsプロトコルを利用します。現在、Coluのカラードコインを送信できるウォレットにはColuが開発したモバイルウォレットしかありませんので、クラウドセールへの参加にはColuのモバイルウォレットが必要となるかもしれません。とはいえ、そのままでは不便なので、今回販売するトークンは5月中を目安にMyceliumウォレットで閲覧・送信できるようにアップデートを行うこととしています。このあたりの実際の参加方法などは、現在不明なのでクラウドセールが始まってから書かれることを期待します。
カラードコインのプロトコルにはCounterpartyなどのように分散型取引所が実装されていないので、クラウドセール終了後にトークンを売りたい、あるいは買いたいという場合は、Poloniexなどの中央集権型の取引所もしくはIOUを発行できるOpenLedgerなどが取扱いをはじめないとできないということになります。
「株的なもの」の正体は?
Myceliumのトークンは「株的なもの」と説明しましたが、「株」ではなく「SAR」であると説明されています。正直、ここらへんの用語は全く詳しくないのでいろいろと調べなければなりませんでした。
SARはStock Appreciation Rightの略で日本語では株式評価益権と訳されます。誰でも送信ができるトークンというかたちなので、従来のSARとはちょっと違う性質もありますが、以下のWikipedia(英語版)のページに詳細がかかれています。
Stock appreciation right - Wikipedia, the free encyclopedia
「株式」は配当が配られるのが特徴ですが、「SAR」は株式のような配当ではなく、会社の評価額の上昇に合わせて、SARの保有数に応じて上昇率分だけ報酬をもらえる権利のようです。投票権等もありません。
トークン(SAR)の発行数は?
トークンの総発行量は最初から決められているわけではなく、今回のクラウドセールでの資金調達額から定められます。今回のクラウドセールで販売されるトークンは、総発行量の5%と明記されており、1BTCあたり1トークンと交換されることとなります。
例えば2,000BTC分が販売された場合、2,000トークンが参加者に送付され、残りの95%分(38,000トークン)をMycelium社が保有ということになります。つまり総発行量は40,000トークンになります。
SARを保有していることによる「配当」イベントとは?
株式ではないので「配当」と呼ぶのはふさわしくないかもしれませんが、この「配当」が行われるのはMycelium社の評価額が上昇したときとされ、具体的には4つのイベント(Triggering Event)が説明されています。
1.追加のトークンのクラウドセールの実施
トークン総量に対して今回のクラウドセールで5%だけ販売することになります。これは非常に少ない割合なので、今後追加でトークンの販売を行うようです。確定的ではありませんが、次回は20%の販売を行う予定と説明されています。この追加のクラウドセールを行う可能性が最も高く、残りの3つはほとんど未定とのことです。なお、この20%の追加販売は大規模な投資家に対して行う考えらしく、もしかしたら今回のように一般公募というかたちにはならないかもしれません。
例えば今回2,000BTCが集まって総発行量が40,000トークンになったとします。このときのMycelium社の評価額は40,000BTCです。次に20%分の販売を行い12,000BTCが集まったとします。このときのMycelium社の評価額は12,000/20%=60,000BTCになります。つまり評価額が1.5倍になったということです。もし最初(今回)のクラウドセールで1BTC分のSARを保有していたとすれば、1.5倍の上昇分、つまり0.5BTCがもらえることになります。
2.IPO(新規株式公開)の実施
株式やその他新しい「株的なもの」を新たに発行する際になります。同じようにこのIPOに基づき会社の評価額が決定されるため、その評価額の上昇に基づき報酬がもらえることになります。
3.資本金の増加
これについては、「capital increase」としか書かれておらず詳細は不明です。
4.Mycelium社の売却・合併・買収など
これも詳細は不明ですが、会社の売却額などに応じて決められた評価額に基づき報酬がもらえるものと思われます。
実際の報酬のかたちは?
報酬はビットコイン(BTC)として保有者のビットコインアドレス宛に直接送られるようです。なお、ビットコインは価格変動のリスクもあるため、Mycelium社の評価額の判定はアメリカドルで行うこととしています。つまり5/19のクラウドセール終了時のアメリカドルベースの評価額を基準として、次回のTriggering Eventでのアメリカドルベースの評価額が比較対象となるということです。
トークンの買戻し(repurchase)について
他にもMycelium社によるトークンの買戻しについてサイトには書かれています。もし今後IPOなどを行うことになった場合、今回のクラウドセール終了時のトークン価格でトークンを買い戻すことを行うようです。
株式を新規発行する際には、5/19時点での価格レートでトークンと新規株式を交換するか、あるいはトークンを売却することができる、ということだと思われます。
クラウドセールで集めた資金の使い道について
実はMyceliumというのはモバイルウォレットだけではなく、Gearという決済プロセッサーやカード状のハードウェアウォレットなども開発しています。
しかし、今回のトークンは「Mycelium Wallet Token」であり、対象となるのは通常のウォレットのみとしています。ただし、ウォレットの開発資金にしか使われないとは書かれておらず明言もしていないので、メインの使い道はウォレットの開発費用(開発者への給料)だとしてもその他広く使われる可能性はありそうです。
その他現在の経費など
開発者4人と研修生2人に対し、現在は合計約30,000~50,000ユーロ/月を給料として払っているそうです。サーバー代などのコストは200ドル/月以下とのことです。その他将来の収益の計画などの実際の投資の参考となる情報はクラウドセール中にアップロードされる予定らしいので開始後にチェックすると良いでしょう。
実際の購入方法は?
これについてはまだ不明です。ただし、以下のページから事前に登録しておくと10%分ディスカウントが受けられるようです。必要なのはメールアドレスのみで、名前は本名でなくてもよく、購入予定額(tantative amount in BTC)もあくまで参考のためのものでディスカウントの計算には考慮されないそうです。
最小の購入単位等も定められておらず0.01BTCだけ購入ということも可能です。
※追記:サイトに登録してログイン後、送金額とメールアドレスを入力して、送金後に表示されるビットコインアドレスに送ればいいようです。トークンの配布方法はまだ不明なので、取引所などからではなく秘密鍵を管理している(表示できる)ウォレットから送金するのが無難だと思います。MyceliumをインストールしていればMyceliumから送るのが一番無難でしょう。送金後は送金ボタンの下のリンクからSales AgreementにDocusign経由で署名を行い送信する必要があります。
参考リンク
本記事の内容は間違っている可能性もあるので、実際に投資したいという方は公式サイトやRedditでのMyceliumのプロダクトマネージャー(Rassah)の回答を見ておくことをお勧めします。
公式サイト
https://wallet.mycelium.com/crowdsale.pdf
Reddit(はてなブログにRedditのリンクを貼ろうとすると、なぜかエラーがでるのでh抜きのURLのみ)
ttps://www.reddit.com/r/Bitcoin/comments/4gkxox/mycelium_new_wallet_announcement/
ttps://www.reddit.com/r/btc/comments/4gkwov/mycelium_new_wallet_and_crowdsale/
ttps://www.reddit.com/r/Bitcoin/comments/4gnzm5/mycelium_basic_due_diligence_questions/