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半減期後にビットコインの価格が下落してマイナーの採算が取れなくなったらどうなる?

先日、香港の大手取引所Bitfinexのハッキング事件によってビットコインの価格が大きく下落しました。この件はこの件でいろいろと興味深いものの、情報が錯綜している部分もあるのでしばらく様子を見たいと思います。

今回は、収入が25BTC/ブロックから12.5BTC/ブロックに半減してしまったのにも関わらず価格が下がっている現状に関して、ビットコインの基本的な仕組みにはなりますが、マイナーの採算が取れなくなったらビットコインはどうなるか?について書いてみます。

長期的な視点

マイナーの採算が取れなくなったら、一部マイナーは採掘を止めてしまうことが考えられます。そのため、一時的にビットコインの採掘速度(ハッシュレート)が低下し、ブロックの生成間隔(取引の承認時間)が長くなってしまうことが考えられます。しかし、ビットコインにはdifficulty(採掘難易度)の調整が2016ブロックに1回(約2週間に1回)行われるので、ちょうど生成間隔が10分になるように調整された後はこれまでと同じように何の問題なくビットコインが続いていきます。

ビットコインの価格について書かれたサイトでは、マイナーの損益分岐点の話をしている記事をしばしば目にしますが、当然のことながら損益分岐点は変動します。

今回の場合、マイナーが減少⇒difficultyが減少⇒ハッシュレート(採掘力)あたりのブロック生成確率が上昇、という流れになりマイナーの損益分岐価格は下がることになるわけです。

例えば半減期前の損益分岐価格は40,000円/BTCだったとします。その他の条件が全て変わらないとすれば、半減期後は収入が半分になるので損益分岐価格は80,000円/BTCとなります。よってビットコイン価格が8万円以上にならないとマイナーの採算は取れなくなってしまいますが、マイナーが採掘を取りやめてdifficultyが減少すれば、採掘を続けているマイナーの利益率は上がっていくため、それに伴い損益分岐価格も80,000円/BTCから下がっていくことになるのです。

このようにビットコインにはハッシュレートの下落に対応できる仕組みを備えており、マイニングプールの集中化や一時的な取引承認時間(ブロック生成間隔)の増加などの懸念がないわけではないですが、成長し続けなければ破綻するというポンジスキーム的なものにはなっていません。

短期的な視点

問題とされるのが短期的な影響です。問題の最大の原因は、2016ブロックに1回、約2週間に1回「しか」difficultyの調整が行われないことにあります。この点は早くから問題にされ、今ではほとんどのアルトコインで1ブロック毎にdifficultyの調整が行われるよう設定されています。

実際に約半年前にビットコインの開発チームのメーリングリストで、difficultyの調整アルゴリズムをハードフォークによって修正するコードを用意すべきではないか、ということが議論になったこともありました。

メーリングリストの中で、もし価格が下落することによってハッシュレートが50%下落した場合、それによってブロックの生成間隔は20分となり、1ブロックあたりに含まれる取引量も2倍になるという仮定が挙げられています。現在のブロックサイズの上限は1MBであり、最近はその上限に近づいているので、仮にハッシュレートが半減しようものなら、ブロックサイズの上限から溢れて多くの取引がブロックに取り込まれない状況が続き、順番待ちの取引が無限に増えていくことになるわけです。ビットコインを送信しても全然承認されない、というのは大問題となります。このような状況となり、多くの人がビットコインはもうおしまいと思ってさらに価格が下落すれば、マイナーの採算が取れなくなってさらにどんどんハッシュレートも下がってしまう悪循環に陥ってしまうのです。

difficultyさえ調整されれば問題はありませんが、調整は2016ブロックに1回しか行われません。通常通り10分間隔でブロックが採掘されれば約2週間です。しかし、20分間隔になれば約4週間、最悪の場合は半永久的にdifficultyの調整がされないなんて可能性もあります。

万が一こんな状況になれば、ビットコインをハードフォークしてdifficultyを手動で設定するしかありません。

現実は?

先のメーリングリストでは議題に上ったものの、そもそもハッシュレートが急激に50%も下落するということは非現実的であると考えられ、実際には真剣に検討されることはありませんでした。(他にもハードフォークのリスクや新しい調整アルゴリズムの導入による脆弱性のリスクが大きすぎるため)

bitcoinwisdomによれば、半減期後のハッシュレートは下落傾向にありましたが、普段から観測されるような誤差範囲程度の下落にしかすぎず、しかも現在は回復傾向にあります。f:id:jpbitcoin:20160807152918p:plain

ハッシュレートが急激に下がることが非現実的である理由はいくつか考えられています。なかでも一番大きい根拠と考えられるのが、そもそもビットコインの採掘の経費は、マイニング設備への初期投資費用が多くを占め、継続してかかる(中国での)電気代は非常に少ないのではないか、ということです。中国のマイニング業者は、電気を一定量(例えば一年間分)ごと購入して支払っており、電気は貯めておくのが難しいので少なくとも購入した分は採掘し続けるだろうという話もあります。

実際の数値はよくわかりませんが、初期投資費用を無視してビットコインの採掘報酬(12.5BTC/ブロック)と電気代だけから考えれば、かなり高い利益率を上げられる、つまり損益分岐価格はかなり低いのではないかと考えられます。

いずれにしても、今回の半減期によるハッシュレートの低下は大方の予想通り限定的なものとなりました。2012年の1回目の半減期、2014年初めの中国での規制/Mt.Gox事件よるビットコイン大暴落、その他アルトコインの事例を見渡してみても、価格下落によるビットコインネットワークへの影響というのは小さいものと思われます。